1 誰に立ち退き交渉を頼むか

不動産の明渡を考えた時に、真っ先に思いつくのは不動産の管理会社への連絡だと思います。不動産の管理会社さんも、明け渡してほしい旨の連絡ぐらいはしてくれます。しかし、それ以上の交渉となるとなかなかしてくれないのが実情です。

その理由は、立ち退き交渉を不動産業者が業として報酬を受け取って行うと「弁護士法違反」具体的に言えば弁護士法72条違反になるという事にあります。下記に、不動産屋さんが立ち退き交渉をした事案の最高裁の判例を挙げておきます。

<平成22年7月20日最高裁判例>

弁護士資格等がない者らが,ビルの所有者から委託を受けて,そのビルの賃借人らと交渉して賃貸借契約を合意解除した上で各室を明け渡させるなどの業務を行った行為について,弁護士法72条違反の罪が成立するとされた事例

上記の判例で言い渡された刑は懲役刑および1億近い金額の没収と、15億の追徴といった厳しいものでした。

・懲役1年~2年

・金161万4261円と金9268万5081円を没収。

・被告人Y1株式会社から金15億6981万2704円を,同Y2から金14億9181万2704円を,同Y3ことY3から金3000万円を,同Y4ことY4から金2000万円を,同Y5及び同Y6ことY6から各金500万円を,同Y7から金1000万円を追徴する。

このように、不動産の管理会社さんが積極的に明渡交渉をしてくれることはまずありません。では、どうすればよいのでしょうか。

2 自分で出来る立ち退き交渉の心得

まずは、立ち退き交渉は、大家さん、地主さん、自身が行うことが望ましいです。前述のように報酬をもらって不動産屋さんが立ち退き交渉をするのは法律違反となり、最悪、懲役や多額の追徴がかかります。また、サービスの範囲で依頼するとなると、不動産屋さんが慎重に熱心に立ち退き交渉をすることは期待できず、やはり報酬有りと比べれば失敗するリスクは高くなると言えそうです。

また、明渡交渉は、最終的には、大家さん・オーナーさんの人柄が賃借人を動かすと言っても過言ではないです。従って、大家さん・地主さん自身が立ち退き交渉をする事もできます。ただし、次に掲げるチェックリストに一つでも当てはまる方は、初めから弁護士などに依頼することをお勧めします。

□頭に血が上りやすい。

□店子に頭を下げるような真似ができないと感じる。

□交渉で徐々に賃料を上げるなどができない。

□利益衡量が苦手

□ややこしい相手に反論できない。

 なお、1軒でも立退きを拒否する物件が出て交渉が長引くと、その間、立ち退きが済んでいる不動産に新たな店子をいれるわけにはいかず、家賃収入が激減します。すると最悪、不動産は収益も上がらない“負動産”になってしまいます。そこで、下記のようなことに気を付けて交渉を進める必要があります。立退き交渉の流れはこちら

1.資金は有限、時間も有限。→早め早めの対策

  まず、明渡交渉をするオーナーさんは、後に建物立替などを考えていらっしゃる事かと思います。また、そうでなくても資金は有限です。空き店舗や空き物件が続いたままだと、オーナーさん自身の貯金が目減りし、また取り得る手段も減っていきます。早め早めに動く事をおすすめします。弁護士などへのご相談も並行してご検討ください。

2.細心の注意を払って、速やかに行動すること。

 相手方が頑固に居座ってしまうと、オーナーさんの時間と費用が掛かることになります。まず、長年賃貸してくれたことへの感謝を示し、明渡の説得をします。

3.費用については段階的な提案を

 建物明渡交渉の場合、複数の賃貸人と交渉する必要があり、思いのほか費用が掛かることがあります。明渡交渉の賃料の費用定時は段階的に行うようにすることをお勧めします。

※当事務所では何らかの特別な事情がない限り、いきなり内容証明を送るようなことは避けています。

立ち退き交渉最大のコツ

 <賃借人が立退き請求にあった時の最大の不安は何かを考える>

 1.引っ越し先、住居を追い出された後に同様の物件に入れるのか。

 2.引っ越し代、敷金礼金の負担。

 3.テナントさんの場合は、顧客離れの不安 →これらの解消も考えた上で、立ち退きの話を提案する。

 4.新しい賃貸先についても提案

 (不動産屋さんと『賃借人が転居してもよいと思いそうな物件』を探し紹介するなど。)

 5.テナントさんについては、建て替え後に入ってもらう約束など。

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