1 執行猶予とは

 執行猶予とは、犯情が悪くなく必ずしも現実的な刑の執行を必要としない場合に、一定期間その執行を猶予し、猶予期間を無事経過したときは、刑罰権を消滅させる制度です。要は、判決に執行猶予が付された場合には、被告人は、刑務所に収容されることなく、通常の生活に戻ることができ、執行猶予期間、犯罪を犯すことなく経過すれば、刑を免れることができるという制度です。

 

2 執行猶予になるための条件

 執行猶予になる条件は、①前に禁固以上の刑に処せられたことのない者又は、②その執行を受け終わった日またはその執行の免除を受けた日から5年以内に禁固以上の刑に処せられたことがない者が、3年以下の懲役若しくは禁固又は50万円いかの罰金の言い渡しを受けた場合には、情状により、その刑の全部の執行を猶予することができます(刑法26条1項)

 情状とは、例えば、被告人が反省していたり、前科・前歴がなかったり、犯情が悪くなかったり、被害弁償が済んでいたり、被告人に監督者が存在するなど、被告人の刑を軽くするような事情をいいます。

 

3 前科のある人の執行猶予の条件

 では、前科のある者が執行猶予判決を得ることはできるでしょうか。

まず、前科が執行猶予(全部)付の懲役・禁錮で、既に執行猶予期間が経過している場合には、法律上、「刑の言渡しは、効力を失う。」(刑法27条)と規定されていることから、「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」(上述2の①)に該当します。これにより、今回言い渡される刑が3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金ですむ場合には、執行猶予が付く可能性があります。

また、前科が、執行猶予の付かない懲役・禁錮で、出所の日から5年以上経過している場合については、法律上、「前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」(上述2の②)に該当します。同様に、今回言い渡される刑が3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金ですむ場合に、執行猶予が付く可能性があります。

 ただし、前科のある場合には、初犯の場合に比べ、執行猶予が付く可能性は低くなりますので、注意が必要です。

 

4 執行猶予中の再犯と執行猶予の取消

 前科が、執行猶予付の懲役・禁錮で、執行猶予期間中であるが、情状に特に酌量すべきものがある場合に執行猶予付きの判決が認められることがあります。これを「再度の執行猶予」といいます。しかし、再度の執行猶予の場合には、他の執行猶予よりも条件は厳しく、今回言い渡される刑が1年以下の懲役・禁錮という軽微なものである必要があります。さらに、他の執行猶予と異なる要件として、情状に「特に酌量すべきものがあること」が必要です。
 また、執行猶予に保護観察が付された場合に、保護観察期間内に罪を犯してしまったときは、再度の執行猶予は認められません。

 ですから、再度の執行猶予がつく可能性は、非常に低いと考えてよいでしょう。

 再度の執行猶予がつかない場合には、さらなる問題もあります。

 執行猶予期間内に更に罪を犯して禁固以上の実刑に処せられた場合には、取り消されてしまいます(刑法26条1号 執行猶予の必要的取消)。そうなると、例えば前回懲役3年執行猶予5年、今般懲役2年の実刑判決を受けたと仮定すると、計5年服役しなければならなくなります。

いかなる場合でも犯罪を犯してはいけないのは、当然ですが、執行猶予期間中は、特に気を付けなければなりません。

 

5 執行猶予が取り消されずにすむために

 執行猶予が必要的に取り消されないためには、猶予の期間内に禁錮以上の刑に「処せられ」なければよいことです。すなわち、猶予期間中に罪を犯してしまったとしても、判決までに執行猶予期間が経過していれば、前刑の執行猶予は取り消されないことになります。

「刑の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う」(刑法27条)なので、取り消される前に経過してしまえば,刑の言渡しは効力を失ってしまうわけです。

一審の判決までに猶予期間が経過していなくても、控訴すれば控訴審の判決までに経過するような場合には、控訴して、執行猶予が取り消されずに済む場合もあります。

 前科がある場合や、執行猶予期間中の再犯について、執行猶予付の判決を得ることは非常に厳しいですが、可能性が全くないわけではありません。

まずは、経験豊富なニライ法律事務所に御相談ください。