業務を行う中で調べたことなどについて、コラムという形式でまとめていきたいと思います。
今回は、平成27年赤本下巻についてです。

「赤本」、あるいは「赤い本」というのは、日弁連交通事故相談センター東京支部編『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』の通称です。
http://www.n-tacc.or.jp/solution/book.html

交通事故の賠償基準は、1.自賠責基準、2.任意保険基準、3.裁判基準、の三段階あり、基本的に1<2<3となっています。

赤本は、このうち、3.裁判基準の目安となる本です。
赤本は毎年改定されていて、基準が書かれた上巻と、講演録などが載っている下巻が発行されますが、今日は、平成27年の下巻で、役立ちそうに思った部分について書きます。

1 傷害慰謝料基準と判決の認定水準(中間報告)・・・P81以下

 傷害慰謝料(後遺症が残らなくても、交通事故でケガしたことの慰謝料)については、現在、入通院期間の長短に応じた表が基準とされています(上巻記載)。

 この表は、通常の基準(別表Ⅰ)と、他覚所見(画像など、客観的な所見)のないむち打ち症に適用される表(別表Ⅱ)の二つの表があります。

 特に、むち打ち症の場合、期間のみならず、日数の基準により、低く抑えられています。

 例えば、1月1日から6月31日まで、毎月10日に1回だけ通った場合、通院期間は6ヶ月ですが、実通院日数の6日の3倍を上限とするとされているため、通院期間1ヶ月で算定された額にしかなりません。

 この中間報告では、実通院率が低いケースでは、別表Ⅱの基準を超える認定がされている裁判例が多く見られるとされています。

 通院期間よりも実通院日数の3倍のほうが短い事例においては、この分析結果を根拠として、より多くの入通院慰謝料を主張することが可能だと思います。

 色々な理由で通院が飛び飛びになってしまっているような方は、ご相談ください。

2 重要最高裁判例情報(最新判例研究部会)・・・P127

 最高裁平成24年10月11日第一小法廷判決(判例時報2169号3頁)についての解説です。
 複雑な事案、判決であり、また、自賠法15条の解釈なので、被害者側で受任する場合に、直接関係はないので、結論だけ述べます。

 この判決と、最高裁平成18年3月30日第1小法廷判決(民集60巻3号1242頁)を合わせると、自賠法16条についても、下限拘束説は妥当せず、非拘束説を採用したと考えることが妥当である、といえると思います。

 自賠法16条は、自賠責保険に対する被害者請求について規定したものですが、自賠法16条の3では、保険会社は告示で定める支払基準に従わなければならないと書かれています。

 被害者が自賠責保険に対して被害者請求を訴訟上で行った場合に、この支払基準に従わなければならないのか、という点は従来争いがあり、学説は、拘束説、下限拘束説、非拘束説の争いがありました。

 拘束説は、支払基準は裁判所を拘束するとする説で、非拘束説は拘束しないとする説、下限拘束説は、支払基準を下回ってはならないという意味で拘束するという説でした。

 18年判決は、非拘束説を採用したものであろうとは言われていましたが、事案からして、下限拘束説を採用したとみる余地が0ではなかったところ、本判決は15条に関するものではありますが、下限でも拘束しないとしているので、合わせると、16条でも非拘束説を採用することは確実だと考えてよいと思います。

 では、非拘束説だとどうなるのか、ということです。

 例えば、加害者が任意保険に入っておらず、自賠責保険のみで、かつ加害者に資力がない場合、被害者請求を自賠責保険に対して行って、そちらからしか回収できないわけですが、この場合、支払基準によると有利な場合、不利な場合を問わずに、裁判では支払基準は関係なくなるので、支払基準によると有利な場合(過失相殺が大きい場合など)には、訴訟外で請求し、支払基準によると不利な場合には、訴訟提起したほうがよい、ということになります(拘束説だと、訴訟提起するメリットはなく、下限拘束説だと常に訴訟提起するという選択をしてもリスクがない)。

 ただし、ここでいう支払基準はあくまで自賠法16条3項の規定するものであり、施行令2条の保険金額の上限には拘束されるので、かなり限られたケースでしか役立ちませんが、重要な論点です。
 加害者が任意保険に入っていないような場合にも、ぜひともご相談ください。